one day I remember

今思うこと、ある日いつか思い出す、その日のために

「カルマ」/ムック

  業を煮やしたことが幾度あったか。 それが業だとどれだけ言い聞かせたか。 怒って泣いて笑って喜んで、のくりかえし。それもまた人の業。 それらを奏で続けるのが、音楽人の業。 ムックのニューアルバム「カルマ」は、まさしくそんな「業」を世に訴えたものだと私は思う。
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(2010/10/06)
ムック

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私の知りうる限りのムックは、 嫌いなものに「嫌い嫌い」と言い放つだけの幼稚で無邪気な抵抗。 世間様の闇しか捉えられないかわいそうな目。 元気をだそうとがむしゃらになってる姿。 かっこよく、スマートに生きようとした姿。 魂叩き入れなおされた、激情に生きる姿。 これらすべて、アルバムが発売されることにその姿へと変えていくので ファンじゃない私が客観的にみたとしても「どこいきたいんだ」って若干苛立ちを覚える。 明るくなったかと思えば暗くなる、おとなしくなったかとおもえば暴れる。 アルバムが出るたび、そろそろおちつけよと言いたくなる。 ただ、後々気づく。喜怒哀楽の繰り返しだこれは。 そのときのアルバムが「喜怒哀楽」のどれに値するかはそのときの気分次第。 じゃあ、今回はどうなんだろう、って考えたら 「哀しみを知った上での喜び」というのが自分の中で妙にしっくり来た。 曲に哀愁は常に付きまとう、憤りや孤独、空虚なんていったものはお手の物の世界で でも、その先が見えるような。それらをまるっと包み込んでいるような ゆとりが見えた。孤独を嘆くことのできる哀しみが愛しい。怒りを吐き出せる声が救い。 突き動かされる感情がうれしい。そんな大人の哀愁と喜びをもうムックはもっているんだなと ずいぶん大人になったなぁとおもいました。親か。私は親か。 その感情の動きは曲の展開におもしろいほどよく反映されているように思う。 A,Bメロの陰鬱なメロディがサビになると転調し、 とたんに視界が開けたり、何かを満たしていくようなそんなメロディへと変わる。そんな曲が多い。 まぁ、暗い曲が好きな人は、そこに物足りなさを感じるかもしれないけれど、笑。 曲調、音もこれまでとは違った何かある。 まず耳にはっきりとどくのは全面的に押し出された電子音と くるくる回るようなダンサンブルなリズム、打ち込み。 ファズがでたころ、確か嫌がった人もいたような、そんな音。 でも「ファズ」は今じゃライブで結構な定番っぽいし? なんだかんだで病み付きになってる方もいる。事実私も「ファズ」がものすごく好きで、 今回、シングル曲になってる「フォーリングダウン」も、 アルバム1曲目のインストからそのまま繋がっていくイントロでかなりそわそわした。 あぁそうか。好きなんだ。今、これがすきなのね。って思った。 ムックらしいとからしくないとか決めてるのは、ほぼ聴き手側で。 1枚1枚アルバムひっくり返して冷静に聞いたら、別にみんなが好きな哀愁歌謡だけ やってたわけじゃないってことはわかるじゃん?ただその割合が多かっただけで。 メロコアにはしってみたらメタルに突き進んでみたり、ラップも必要に応じて入れてみたり。 DJイベントやギターロックフェスへの参入、海外バンドの前座、ヨーロッパツアー、まぁ、 狭い狭いV系の殻を早々にとっぱらいあちこち踏み出している彼らがね、そんなひとつのジャンルの 曲で満足できるかって話。V系の枠にとらわれない世界で、どれだけのものを得てきたよ? そしてそれらを自分たちで表現できないことを悔しがらない表現者はいない。 かっこいいことは自分たちだってどんどんやりたい。 そうやって、素直に受け入れてきた結果でもあるね。ムックは素直なバンドだとおもうよ。 で、また、うまいこと今年の流行に沿った感もある。 今年はギターロック系だとサカナクションとかBAWDIESあたりが成長株といいますか。 BAWDIESはボーカルの声が特徴的で、若いくせにオッサンみたいな味のある声がでるのね。 そういう、「こういう味のある声の曲きいてる自分かっこいい」って聴き手に思わせる オールディーズっぽい曲と、あとは、サカナクションの「アルクアラウンド」みたいな ロックだけど踊れる曲、ようは今このとき一瞬われを忘れてぶっ飛んでたいっていう曲が好まれた模様。 9mmはまた別口で「とにかくわけわかんないけど五月雨のような音が頭ぶっ飛ばせてくれる」 みたいなのがいいのかな。 とにかく世相が世相なのか「我を忘れる系」が大流行。(エモロックはちょっと下降気味) ムックはこれらのうち、サカナクションみたいな「ロックだけど踊れる曲」を 的確にこの時代に乗せてきたわけです。 ただ、ムックなんでね、そこにありがちな無機質さはなくて。 ギターやドラムがはがっつりはいってくるし、声やら歌詞は耳に残るし、我を忘れようにも どんどん入り込んでえぐってきたりもします、笑。それを忘れてないところがいい。 まぁ、ここはあえて「ムックらしいところ」といったほうがいいかな。 新たな境地としてはジャズとスカ?「堕落」と「サーカス」 「堕落」をはじめて聞いたときは車の中で「うっひょー!」と声を上げてしまいました。 またこんなシャレオツな曲をたつろーさんが作ってきたというのでお手上げです。 彼、今回からだよね?作曲はいってきたのは。 これを歌い上げる歌唱力にもびっくり。あぁ、こんなに声の抑制と表現ができる人なんだと 思わず感嘆のため息が漏れました。 私、これまでムックをあまりきいてこれなかった背景にたつろーさんの「やりすぎな声」が あるわけで。私、ほんとなんでだろ?って思うぐらい 好きになるバンドは大概最初「声」を嫌っているのです。その、やりすぎ感に。 ようはしつこい声が好きじゃないのです。 声が収まると好きになるんです。「約束」聞いたときに、あぁやさしいな、とおもって。 「イソラ」きいたら、「いい声じゃん」になりました。 夏JACKで河村隆一さんに「歌が独特で誰にもまねできることじゃないから大切にしな」っていわれた らしいですね。その独特さを一方的にだしきるんじゃなくて操れるようになったときに 私は好きになるんだと思います。 「堕落」、ちょっとラルクのオフィーリア思い出したな。 「サーカス」はかっこいい曲のはずなんだけど、思い切りのいいラッパの音がジョークみたいで 一瞬ぷって笑いそうになる。でもこういうイロモノハネモノお祭り系大好き! レコーディングで素敵な若いおねーさんたちがラッパを吹いておりまして、 あれ、この若い子どこかで見たことある・・・っておもってクレジットみたら ピストルバルブの人たちでした。 あのー、フジテレビの「ベストハウス」っていう番組で「1・2・3♪」ってやってるねーちゃんたちね。 一時期ipodに曲はいってました。ライブで共演すればいいのに! あの曲もこの曲も聴けば聴くほどしみてきて、本当にどれも好きなんだけど、 お気に入りは、「フォーリングダウン」(イントロで血が上る)と 「I am computer」(アウトローで血が上る)と「フリージア」。 一番はやっぱり最後の「フリージア」です。これ、確か一回iTMSで試聴したはずなんだけど、 サビのもったり感がそのときの気分にあわなかったみたいで。 がしかしですね、これはやっぱり曲全体を通して聴くべきで、AメロBメロからの流れであのサビが くるともう、泣きたくなる。 ちょうどこの前シドラジでメンバーが「秋に聞きたい曲」をセレクトしてて、 明希ちゃんがスピッツの「楓」をだしてきたんだけど、 それが最初どうやらゆうやさんとかぶってたらしくて。で、そのときにゆうやさんが 「この曲、この後のサビでいきなりくるもんね、泣きたくなる。」っていってたんですね。 そのスピッツの曲はAメロBメロはほのぼのとあたたかいんだけど サビになると急にせつなさびしい曲になるんです。楽しくおしゃべりしてたのに、いつのまにか 後ろを振り返ったらだれもいなくなって一人になってた夕暮れの寂しさ。そこが泣きどころで。 「フリージア」は逆パターンです。さっきもいってたように陰鬱なAメロBメロが、サビで ぱぁーん!とひらけるわけです。AメロBメロの寂しさをのこしつつも。そこでぐっと泣きそうになる。 あとは2番終わりのところとアウトローの鳴きのギター。ムックってこんなギターの鳴らし方してたか っておもうぐらい、情感ゆたかなギターです。kenちゃんを彷彿させるよ。 っていうかこの曲自体、ラルクのバラードを彷彿させます。 ベタな歌詞と甘い曲調でひとまず客泣かそうなんておもってる薄っぺらくて打算的で商業的な バラードじゃなくて、ものすごく奥行きを感じるバラード。 バラード苦手な私もこれはじんときた。 なんか、このアルバムききながら思うんだけど、 ムックはイエモン的なバンドになれるんじゃないかな。いつか。すごく遠いかもしれないけれど。 あのバンドぐらいなんだよね。ギターロック界にもVロック界にも意気揚々と顔だせたの。 自分たちの色を忘れることなくどちらにも堂々と姿をだせたあのいさぎよさと 間口の広さをムックはもってるとおもうの。 何度も何度も何度もいってるけどこの2つの世界の どうしようもなく深い溝に橋をかけるか、どうしようもなく高い壁を打ち砕くかしてほしい。 変なもんでさ、「凛として時雨」やハイエイタスはスペシャのチャートで1位とれるのに なんでムックはとれないんだって思うわけ。 V系好きな人ってさ、一見趣味偏りがちに見えるけど、そう見られたくないっていう意識と プライドがあってあれこれきこうと視野を広げてる人おおいと思うんだ。 自分の立ち位置をよく理解してるよ。 その視野の中にギターロックは存在する。 だから、一部でもギターロックバンドを聞く子はいる。 でも、ギターロック一筋の子って本当にそれ一筋なんだよ。悲しいぐらいに。 自分が聞いてる音楽だけが本物だっていう錯覚におちいってるっていうか・・・ 逆に世界が狭いように最近は感じる。たしかにフェスや対バンでいいバンドみつけてどんどん 好きなバンドを増やしていってるかもしれないけれど、 結局同じ輪のなかでたまたま近くに寄ってきた相手を捕まえてるだけのような。 立ち位置に埋もれて1歩も動けていないのは実はそっちなんじゃないのかな。 顔に盲目だろうが曲に盲目だろうが同じこと、そこから少しでも踏み出したことあるかだよ。 CDJ、きっとメインステージとかでは出させてもらえないんだろうけど、笑。 がんばってほしいです。どうか埋もれてる人たちを引きずり出して。 CDJに出るには申し分ないアルバムだからさ、「カルマ」は。 この「カルマ」をもって、己の業を成してほしい。そう、願ってます。