読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

one day I remember

今思うこと、ある日いつか思い出す、その日のために

「日傘」

  さて、神奈川までに終わらせるといったこのお話、神奈川すぎちゃいました。 そろそろ終わらせます。 といっても、始まりの終わり、ですけれども。 終わりの始まり、という文句はハチクロで使われてたなぁ。 始まってしまったらあとはどこかへ収束するのをまつだけ。後戻りはできません。 始まりのそこに、たとえ「幸せ」があったのだとしても。 人間何かしら「始まり」にはときめきを覚えるんです。 そのときが一番楽しかったりもするからね。 小噺のタイトルはやっぱり「日傘」にします。だってあの曲に感化されたんだから。 あの日、日傘を持った彼はずぶ濡れの私をそっと中へ入れた。 「傘、駄目にならないの?」ってきいたら「雨晴両用タイプだから(大丈夫)」といっていた。 それはやさしく雨から身を守った。 ただ、その後に気づく。 それは私がお日様の下で歩く道をも閉ざすのではないのか、と。 やさしく光を閉ざす影に、みんな甘えた。そして駄目になった。 影はどんどん大きくなる。自分が正しいのだと主張するまでに。 そしてあの日も私を喰おうと待ち構えていたのだ。 女物の日傘をもって。 そこがひっかかる。あれは彼のじゃない。だとしたら・・・? 彼の影の奥にある本当の影を暴く光はどこだ。 私はひとつ、覚悟を決めた。 日曜の朝、チャロをつれて公園に行った。 この前かわいそうな思いをさせてしまった(案の定、きゅうぅぅぅんっと下駄箱の隙間に入って鳴いていた。器用な仔!)お詫びに今日はたっぷりこの仔を甘やかしてやろうという気になった。 肌に心地よい秋風が吹く午前、日差しは少々きつめ。でもこれぐらいがちょうどいい。 焼かれたって、焼けるような思いをしたって、それでも日の光を浴びて行きたいの。 「あ、チャロじゃん。お前久しぶりだなぁ!」 後ろから聞こえてきた声に、チャロがいきおいよく「ワン!」と反応し、 つないでいたロープをひっぱられた。そのせいで軽くバランスが崩れる。 チャロ、あなたは誰にでも愛想が良すぎよ。まったく。 「おはよ。」 チャロをこれでもか!と撫で繰り回しながら彼は上目遣いでこちらを見た。 「おはよう、どうせ来ると思ったわ。」 彼はほんのすこし残念そうな顔をした。 私はもうこんなことでしょっちゅう嫌な顔をしない、さすがにあきらめにも似た慣れが生じていた。 それがきっと気に食わないのだろう。 「久しぶりも何も、10日ぐらいじゃない。チャロとあってないのなんて。」 「十分久しぶりだよ。10日に1回じゃ、月3回しかあえないんだよ?なー? 遠距離恋愛だというには十分事足りると思うけど?」 「チャロをあんたの恋人にした覚えはないわよ。」 「それぐらい切なくて寂しいってことだよー。もう、冗談きかないなぁホノさんは。」 あなたには冗談で済ませられないことが多すぎる。 「で、何の用?」 「別に、たぶんホノさんのことだから前回のこともあって今日はチャロにべったりな1日になるだろうと思って俺ももここに来ただけ。チャロ、ごめんねー。あの日ホノさんが俺のこと離してくれなくてさぁ・・・」 思わず私は持っていたプラスチックのスコップで彼の頭を小突いた。 「ったぁー。」 「馬鹿いってんじゃないわよ。・・・悪いけど私はあなたに用があるわ。」 「え?」 今まで一度足りとてなかった私からの突然の用件に彼は珍しく驚いていた。 「何、何なの・・・?」 私はトートバッグの中から折りたたみの日傘を取り出し、彼に差し出した。 「はい、これ返すわ。ありがとう。」 さて、どう出る? 「・・・え、いいよ、いらんし、そのままホノさん使いなよ。」 「これ、あなたのじゃないでしょ?女物じゃない。ちゃんと持ち主に返しなさいよ。」 「いいってば、どうせもう会うこともないしさ。」 「でも私はこれ要らないの。趣味じゃないし。だから返す。」 「なら、余計俺が持ってるのも変じゃん!俺男だよ。」 「じゃあ、なんであんな降水確率100%の日にこんな傘さしてたわけ!?」 彼からの返事がとまった。やっぱり、なんかある。 「あのねぇ、前の彼女の物ぐらい自分で始末してよね。私はあなたの彼女じゃないから こんなもの押し付けられたって別に痛くもかゆくもないけど、単純に迷惑だわ。 まぁ、このままどちらの手にも渡らないならあのゴミ箱に捨ててくるけど?それでいい?」 そういってゴミ箱へと向かいだす。これを捨てたら金輪際彼とは会わない。 私の生活スタイルをすべて変えることになっても、引越ししてでも、 彼がもう近づいてこれないように。 ゴミ箱の目の前に立ち、傘を入れようとした瞬間。 「まって。」 私の右腕を掴み、今までに見せることのなかったつらそうな顔で彼は私を精一杯ひきとめた。 「捨てないで。お願い。」 縋るような目、チャロとおんなじ。 私は満足した。初めて優位にたてたことに。 はい、とその傘を彼に手渡した。 彼はばつの悪そうな顔をしてしばらくその傘を眺めていた。 そのまま彼の奥にあるものを探っても良かったが、ここで急いてはきっと彼はまた逃げて 同じことを別の人に繰り返すだけなのであえて聞かないことにした。 逃がしはしない。 「ねぇ、私考えてたの、ずっと。」 「なに、」 「あなたの不幸せはどこにあるのかって。」 強い秋風が一気に吹いた。 まだ、色を変えていない桜の葉やもみじがいっせいに散っていった。 若いまま彩ることなく絶たれた葉は、それでも、やがては土に還りその木を咲かすだろう。 若いうちに希望を絶たれた人は、誰かの不幸せを願わなければ呼吸すらできないのだろうか。 彼は、私は、どうだというのだろうか。 「俺に不幸せなんてないよ。言ったじゃん。幸せになんてなろうと思っちゃいないって。」 ”幸せを求めなければ不幸せになんてならない。” ”お互いが幸せを求め合ってきっとみんな駄目になっていったんだよ。” 彼は慰めのように最初私に言った。それは覚えてる。 確かに甘美な響きがあの時漂ってそれに流されそうになったことも。 違う、駄目にしたのは幸せを求めた自分自身じゃなくてあんただ。 「俺は何も求めなかったよ。求めてないのに向こうはなんでも差し出してくれるんだ。 あったかい手料理、仕立てのいい服、ふかふかの寝床、脚だって黙って開いた。 向こうは罪悪感と依存心で俺を咎めることなんてない。ただいてほしくて縋りよってくる。 こんな楽なことないって思ったね。不幸をつついたらね、蜜がひっきりなしにあふれてくるんだよ。」 他人の不幸は蜜の味。をそのまま体現して見せてる男が目の前にいる。 「それで幸せ?」 「は?話聞いてた?俺は別に幸せを求めて誰かといるわけじゃないよ。楽だし楽しいだけ。 与えられるものを拒むことなく受け入れてるだけ。それだけだよ。」 「幸せではないのね?私に近づいてきたのも、幸せを求めてたわけじゃなくて 単に楽しんでただけなのね?」 「だから何回も言わせんな!俺には幸せなんて要らんの!幸せとか、なん・・そんないるの・・・? おれに求めんの・・・なんで、なんで俺の幸せをあんたが求めんの?」 「あなたに『不幸せ』になってもらいたいからよ。」 真正面見据えて、私は堂々と彼に向かって宣言した。 彼の目が動揺と驚きでいっぱいになり右往左往していた。 それでも私は彼の目をずっと射抜いた。 もう知ってる。こいつはそんなに強くない。 こいつは、今まで泣かされてきた女よりもずっとずっと弱い。 足が速いくせして怖くてどこにも飛び出すことのできない臆病者の兎だ。 だから、私が出してあげる。 「あのね、私をこれまでの女と一緒にしないでね。私もさんざん苦しめられてきて悔しくって悔しくって貴方を一泡吹かせたくてしょうがないの。私が不幸せになった分あなたも不幸せになんのよ。何が何でもね。でも、あなたは幸せを求めない。はなっからそんな姿勢でいられたんじゃこちらに勝ち目はない。絶望的ね。」 お手上げ、のポーズをとると、彼の緊張が一瞬緩んだ。 「だけど残念ね、あなたが私に貸したその日傘が仇になったわ。 何かあると思ったの。これは。 あなたが生まれながらにしてこんなひねくれた男なわけがないと思った。 あなただって、純粋に、誰かと幸せになりたいって思った時、あったでしょ?きっと。 だから使わせてもらったわ、その傘。そしたらまぁ、もののみごとにひっかかってくれた。」 傘を捨てそうになったときかれが見せた絶望の顔。 傘が手元に戻ってきたときに見せた安堵と深い愛情の顔。 私の顔がどんどんいきいきしていくのがわかる。 太陽はは私に光と影を同時に与える。 「まだ、あなたに幸せを求める心はあるの。それは消しようがないの。あきらめなさい。 幸せを求める心がある以上、あなたを『不幸せ』にする可能性は0じゃない。」 くくっと彼が笑った。 「こんな傘一つでそこまで妄想を広げられるホノさん、すごいね。俺よりすごいよ。」 いつのまにかその顔は今日最初に出会ったときのそれに戻っていた。 こいつもなかなか折れない。それだけ長い間この性格は染み付いていたのだ。 「でも、これはもう過去のこと。過去に幸せなんて俺は求めないし、無駄だよ。」と彼は言う。 「そうね、過去をつつくのは貴方と同じやり口だし、ちょっといやだなって思ってたの。だから・・・」 だから?と首をかしげる彼。 さあ、この次の顔がみものだ。 「だから、貴方が私を好きになればいいんだわ。」 彼は、顔からありとあらゆる筋肉が脱力しきった表情で私を見た。 「へ?」 「好きになって。」 「え?」 「好きになんなさいよ。私のこと。」 「え、好きだけど、好きじゃなきゃこんなちょっかいかけないよ。」 「そういう嗜虐心からくる『好き』じゃなくて!もっと、ちゃんとした・・・ そう、私との未来を望むような、私と幸せになりたいなーって思う、好き、よ。」 「ええええぇぇえええええ?ちょ、何、それっ・・・おかしっ、ひぃ、駄目駄目冗談きついって・・・!」 脱力した筋肉が一転、彼の頬と口角を持ち上げ盛大におなかを抱えて笑い出す。 「ホノさん男前すぎ・・・っ!」と目尻に涙をためながら彼が言った。 そこで、自分があまりにも真顔でこっぱずかしいことを言ってたことに気づき、 今更顔が熱くなってきた。 照れ隠し気味に一気にまくしたてた。 「私はあなたなんか好きにならないって自信がある。まだ『あの人』のことは忘れられないし、 あなたにされた数々のことを思い出すと『好き』なんかからは間逆のところに私の気持ちはあるわ。 あなたが私を本気で好きになったところで、私はあなたになんか絶対なびかない。 そしたら、あなたはものすごくつらい片思いをすることになるわ。 それがあなたの『不幸せ』になる。」 私との幸せを求めて、かなわぬ想いに精一杯苦しんで、泣いてよ。 そしたら私の想いは救われるの。終わりをつげることができるの。 「ね、泣いてよ。私の前で。何で好きなのに伝わらないのって惨めったらしく泣いて。」 「うわー、なんか、それ、出会ったときの俺と同じようなこといってるよホノさん。」 「そりゃあ、ね。あんたと1ヶ月以上いたらそういう嗜好も芽生えなくもな・・・」 しまった。とあわてて口を押さえる。彼がにいぃぃっと妖しく笑った。 「へえええ・・・俺なんかに影響されちゃった、わけ?好きでもない俺に?」 あー、そうだった。ちょっとでも気を抜くと立場はすぐ逆転してしまう。 それに、今言われたことは気づかされたことでもあるわけで 「そう、ね。好きにならない、なんて確証もないのかも。」 ルール変更。お互い、本気で好きになったら負け。 「で、どうよ?」 「いいねそれ。」 「自信は?」 「まぁまぁ。」 「めずらしく弱気ねぇ・・・私は大有り!あなたをぜったい『不幸せ』にしてやるんだから。」 「ほんと、今までいろんな人と一緒にいたけど、ホノさん見たいな人初めてだよ。 みんな、結局は自分の『不幸』に酔いしれてただけてただけだったもの。 けど、ホノさんは違ってた。自分の『不幸』そっちのけで俺の『不幸せ』を見出したもんね。 あっけにとられちゃって、ちょっと自信ない。」 すっと、背筋を伸ばして改めて正面に向き合った。 「ホノカさん、俺を不幸せにしてね。できるものなら。」 それはプロポーズの返事よう、挑戦状をたたきつけてきた彼。 けれど、私はもうそれで十分すぎるほど幸せを感じていた。 「えぇ、よろこんで。」 私は高みから眺める傍観者のフリをして実は檻の中にいた兎を、 日に光差す地上へと引き摺り下ろしたかったのだ。 そして、それがようやく叶い、今スタート地点に立つ。 古いボードゲームを捨て、あらたなボードゲームを開いてコマを二つ、並べた。 それは今までみたいな一つのゴールを目指すものではなく、互いの城を落とすゲーム。 スタートの合図は、ゴミ箱に捨てた日傘の落ちる音。 いま、決戦がはじまる。 -------------------------------------------------------------------------------- 終わった・・・。終えた・・・。つかれた・・・。 でも満足。 神奈川で「日傘」をききながら、一生懸命この話の終わりを考えてました。 PATIPATIイベのどしょっぱなで「日傘」を選んだというマオさんにこの曲の異常な思い入れっぷりを 感じざるを得なくてね。妄想はめくるめく広がるのですよ。 不謹慎で下世話な生き物、女な私は30代前半のころのハイディのブルーでダウンな 感情に沸きたって、そのころのオーラがいまでも色鮮やかに思い浮かばれますし、 同じぐらいの年をたぶん迎えているであろうマオさんにも同じような思いを抱いております。 手を差し伸べる振りして視姦して。私あの人に苦しんでほしい。もうちょっと。 傍目、はっちゃけてるようにみえる裏で仄暗い思想をはりめぐらせててほしい。あとちょっと。 言葉をつむいで歌うものとして、もうしばらくは丸くならないでねって願ってる。 どうせ人は丸くなるんだから。心も体も。 隣にある光がまぶしければまぶしいほど影は濃くなる。 表に立っていてもけして表向きではない自分に果てしなく絶望を覚える。 日の光の下手を取り合っていけたらいいのに。 シドは年上組が日陰、年下組が日向で互いが色濃くなるようなりたってるんだなぁ。 日向の子はその影を消したくてがんばって日陰の子を照らすんだけど、 逆にそれが影を濃くしてしまうという残酷さ。 照らされないほうが傷つかないと日陰の子は檻に向かうんです。夜が大好物。 なーんてほらほら妄想とまらない! お話は続くようで続きません。始まりを書きたかっただけ。 一部、思い浮んだエピソードもあるんだけど。それは気が向いたら。 この2人どうなるんだろう。ま、くっつくよねふつうは。もとから城は崩れかけてたって話さ。 明るくてかわいらしくてガーリーなお話かきたいなー。何かの歌をネタに。 名前なんですが。 「穂の香」は私が子供につけたい名前(漢字が微妙だからもうちょっと考える) 「チャロ」は某教育番組で1年前にやってた英会話の番組のストーリーで主人公だった犬の名前。 すっげぇかわいい。あのぬいぐるみほしくなったもん。 「嘉穂」はなんとなく。ほんわかした名前が良かった。 「ゆうと」、本当の漢字を考えてない、実は。これは彼の名前を元に一つはなしを考えていて そのためにつけられた名前。 「あの人」の名前が最後まで出てこなかったのもこれに起因します。 ま、そんなまともに読んでる人いないとは思うんですが。 もし、読んでいただけていたのならうれしい。 よし、次を考えよう。性懲りもなく。