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one day I remember

今思うこと、ある日いつか思い出す、その日のために

小噺続き。あと1回で終わる。その1回が書きたかっただけなのに あれよあれよと長くなってしまった。 最初は書きたい結末があってはやくその結末にたどりつきたいと思って書き始めるんだけれど 書いてるとあれもこれもが書きたくて長くなるのね。 本当に書きたかったのは次の回。 だから今回のは蛇足ともいえるべき余談。だらだらしてます。   宿り木の下ではキスをしなければならないという習慣を彼はは目ざとく知っていた。 違うの、あんたは宿り木の下にいる男じゃなくて宿り木そのものなの! ずっとそこに立ってて誰かと誰かが幸せになるのを見ていればいいんだわ。 残念ながらそこにいるのは私じゃないけど。 私の家になんて連れてきたくなかったし 彼の家に転がり込んだら後に引けないし でも、正直、一人もつらいわでひとつ部屋を取った。 悪趣味な色のベッドを見た瞬間、気持ち悪さより後悔よりも何より、眠気が勝った。 張り詰めていた緊張がほどけた時、涙を流すより寝てしまったほうがいいというのか。 なるほど、私らしいといえば私らしい。 倒れるようにしてダイブ。そのまま眠りこけてまった。 むろん、隣にいたであろう男のことなどとうに忘れて。 「   」 誰かに名前を呼ばれた。優しい声。でも聞いたことない。 浅い眠りで現実とも夢ともつかないようなところにいた。 そういえば、名前、知らないなぁ・・・ 「ワン!」 ワン?え、犬?犬が鳴いてる?い、ぬ・・・ 「チャロ!」 あわてて飛び起きたはいいもののそこはやはりさっき入った仄暗い部屋のひとつで。 帰らなければ、と、思った。もう帰れる、歩ける。 私を待ってくれてる仔がいるもの。無償の愛をくれるあの仔が。 時計を見ると9時30分。今から急いで帰れば10時。 2時間もご飯の時間がおそくなってしまった。 いまごろワン!と吼える力もなくて「キューン・・・」とうなってるに違いない。 ごめん、ごめん。 ふ、と隣を見るとベッドの上で丸くなってる物体。 まるまってうずくまるようにして寝ている彼がいた。なんだか寒そう。 そこで自分のひざにかかっていたものに気づいた。彼が着ていた上着だ。 たぶん私の上半身にかけられていたのであろうそれを彼にそっとかけなおす。 そうだ、写真おくるんだったっけ?あの人に。 携帯を鞄からだしカメラモードにする。 彼の顔にフォーカスを当てるべく自分も精一杯体をかがめてシャッターボタンを押した。 パシャ!と静かな部屋に意外と大きく響いた音は彼を起こすには十分だった。 「なに、撮ってんの?」 携帯を持っていた手をぐっと引かれて今しがた撮ったばかりの画像を見られた。 「わー、俺こんな顔してねてんのー。ってか何しとん?」 画像の彼は私が期待したほどの不細工顔ではなく、むしろ、綺麗とさえいわれそうなほどで むかついたのと、こんな寝顔をとっていたということを目の前の彼にばれた気恥ずかしさとで 顔にどんどん熱が上がってきた。 「『あの人』に送るの。」 「え。俺の寝顔を?」 「そう。」 「だっ・・・大胆なことするねぇっ!何?どっかおかしくなっちゃった?」 「おかしくなんてなってないわよ!おかしくなったとしてもあんたよりかはマシな人間よ!」 「ひっど。でも、それ送るのってあれでしょ?【彼と寝ました。】的な相手の嫉妬をさそう・・・」 今度こそ私の頭が噴火した。 「ばっかじゃないの!!!」 薄い壁で仕切られた部屋だからこの声はきっと隣の部屋の邪魔をしてしまったであろう。 「だってそうじゃん!普通に考えたらこんなの男に送るなんてそれぐらいしか・・・」 「あんたの頭はそういう昼メロ要素しかないわけ? 大体『あの人』の中ではあんたは私の弟になってんのよ!」 「いや・・・でも、実は血のつながってない姉弟の関係で云々・・・。」 腐ってる。どこまでもこいつは腐ってる。上着をかけた私の優しさを返せ。 「違うの。あんたの不細工な寝顔を見せれば嘉穂さん幻滅するかも、ってあの人に言ったの。 で、写真送るって約束したから撮ったの。あんましおもしろくない顔なのが残念だけど。」 「嘉穂、さん?」 「この前見たでしょう?あの人の婚約者。」 「あー、あの幸せ太りしたしょーもない女。」 興味のない女の人に対しての言葉が「メス豚」並みに酷いことをここ数週間で知った。 「嘉穂さん、あんたみたいなのがタイプなんだって。」 「へぇ・・・」 それまで無表情だった顔が興味をもちはじめた。 「惚れっぽい彼女に困ってたみたい。あの人。」 「ふぅーん・・・。」 分かる、こいつが今、なに考えてるか分かる。 「それってまたとないチャンスだよねぇ。あー、だから?だから彼は君を振らなかったのか。 彼女が遊びほうけるから自分もいずれ遊び相手をつくろうと。その候補の一人が君だ。 いいよ?そういうことなら俺協力しても。 あのむちむちした体にはちょっと嫌悪感覚えるけどがんばってもいいかなぁ・・・ 痩せて好みになったら一石二鳥だし。」 パーン! 乾いた音が部屋に響いた。隣の部屋の2人はきっと修羅場だと思ってるに違いない。 「・・・・っつぅ・・・」 「・・・ごめん。でも、今の言葉は許さない。『あの人』はそんな人じゃない。」 私が好きになった人をあんたみたいな人に汚されたくないの。 わたしまでぐしゃぐしゃになる。 彼の頬をたたいてしまったのは、あの人に対する侮辱に怒ったのと自分の中の醜さをすべて 暴かれてしまったような気がしてとっさに拒否反応がでたのと2つ、理由があった。 「考えたよ、そういうこと。考えた。」 彼がきょとんとした顔をした。 「考えてさ、やろうとしたんだよ。 4人で会う約束して、最終的にあんたと嘉穂さんがいい感じになればなんてね。 思うよ。私も女だもん。思うよ・・・。」 「でも、『嘉穂さんを幻滅させる』ってさっき言ってたね。それって思ってるのと間逆じゃん。」 「あの人はね、そんなもんじゃめげない位芯の通った人なの。嘉穂さんがなんだかんだで戻ってこれるのも、そんなところになんだかんだで惚れ込んでるからなの。つけいる余地、ある?」 「ない、か。」 「ないよ。で、そんなこと思っちゃったが故に罪悪感がでて、彼にその魂胆がばれるのが怖くて カバーするために今回の写真の件を持ち出したの。」 「・・・そっか。」 彼は妙に納得したような顔をして、なぜかにんまりと笑って私の頭を撫でた。 「そっか。ちゃんとかわいい所あるじゃん、ホノカさん?」 目をこれでもかってぐらい開けて私は彼を見た。 「ちょっと、なんで私の名前しってんのよ!?」 「ごめん、ネームプレートみちゃった。かけっぱなしで寝てるときに首しまると危ないと思ったからはずしたんだけどそのときにチラッと見えた。」 これ、と上着のポケットから撮り出したのはさっきまで首にかけていたネームプレート。 そういえば会社から出る時、はずすのすら忘れてた。 彼がそのネームプレートをまじまじと見ているのであわてて奪い取る。 そのネームプレートには入社したばっかりの青臭い自分の顔も載っていた。 「漢字で書くと【穂の香】なんだ。秋田美人にぴったりな名前だよね。」 「すいませんね、その秋田美人じゃなくて。」 「ごめんごめん。でもホノカさんは美人じゃないけどかわいいよ。」 「何それ。」 「ホノカさんはさー、醜いって言ってたけどそういうところって、案外男にはかわいくみえるんだよ。 少なくとも俺は今回のホノカさんの行動にキュンとしたし。まぁ、最後は残念な感じで終わったけど。 誰だって、自分を思って必死になってくれるのって嬉しいしそれがフィルターになって 思わぬ好意に転じることだってある。ま、ストーカーは駄目だけどね。」 じゃあ、ここ1ヶ月ほどあんたがやってるこれはなんだっていうんだ?と突っ込みをいれたくなった。 私はちっともあんたを可愛いと思ったことがないわよ。 よくがんばったねホノカさん、と、何度も何度も頭を撫でられる。 がんばった、なんてこと何もしてないのに、こいつはただ私の髪を撫で付けた。 その行為に私は忘れていた大事なことを思い出す。 がば!っと顔を上に上げるとバランスを崩した彼がベッドにころん、と転がった。 「そうだ!あんたなんかにかまってる暇ないのよ!帰ってチャロにご飯あげなくちゃ!」 脱ぎ捨てたパンプスをいそいそと履いて髪と服を調える私を唖然とした表情で見る彼。 「かまってあげたのは俺なのに・・・。」 「余計なお世話よ。」 「帰るの?」 「帰るわよ?」 「わ、本当に『休憩』してかえる人初めてみた。」 「何が悲しくてあんたなんかと・・・」 「俺もおなか減ったー。ホノカさんの手料理食べたーい。」 「どっかいきなさい。あてならいくらでもあるでしょう?」 「え、ないよ?ホノカさんとあってからはホノカさんに夢中でほか見てらんない。」 「あんたが私に夢中になるとこなんてちっともかわいくないからどっかいきなさい。」 「酷い。ホノさん酷い・・・。」 しおしおと女座りで泣きまねをする男。ああ女々しい。昼メロの見すぎだわ。 去り際、私は気になっていたがあえて聞いていなかったことをひとつだけ聞いた。 「あなた、名前は?」 「名前?」 「そ、私のばれちゃったし、もう知らなくてもいいふりするのやめようと思って。」 「知りたかったんだ?」 「あまりにも正体不明の人とだらだら時間過ごしてるのって気持ち悪いじゃない?」 「あ、そ。まあ、いっか。『ゆうと』っていうんだ。」 「『ゆうと』ね。漢字は?どう書くの?」 「遊ぶに兎で【遊兎】。さんざん遊んどいて気が済んだら兎の如くトンズラするっていう意味で。」 「んなわきゃないでしょ。で、本当は?」 「優しい兎。淋しいと死んじゃうからみんなに優しいの。」 だれださっき「しょーもない女」とか酷いこといってた奴は。 「なんだっていいじゃん。呼んでくれるなら、それでいい。」 甘い言葉を持て余しては遊び呆ける淋しがり屋の兎だとかいう男の名を、 呼んでやろうという気には到底なれなかった。