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one day I remember

今思うこと、ある日いつか思い出す、その日のために

小噺を勢いで書き続けたら、朝になってしまった。ピヨヨ・・。   いつも、私みたいな女をつかまえては喰い散らかしてきたという。 終わりになって、後に引けなくなってからみんな気づくらしいけど、 私は真っ先に気づいた。その真意に。 だから余計に彼は面白がって私についてくる。 黙って喰われてればよかったのか。否、それは私のプライドが許さない。 「おはよー。」 「お、おはようございます。」 「この前はごめんね!買い物途中にひきとめちゃって」 「いえいえ!そんなことないです。」 「彼、弟君?かっこいいね。もてるんでしょ?」 「へ?・・・あぁ、そうですね、もてるみたいですね。」 ある事情を持った特定の人になら。 「だよねぇ。俺も一瞬ドキッとした。」 「え、あいつにですか、笑?」 「いやいやそういうことじゃなくて、あんなかっこいいやつと付き合ってんのかって、思って。」 だから焦って思わず訊ねてしまった、と彼はいった。 ドキッとしたって何?焦ったって何? 「脈があるってことだろ?」の言葉が競り上がって私の鼓動が脈打つ。 ありえない、ありもしない!期待が押し寄せる。 「また、嘉穂がさぁ、ああいうの好みなんだよ。俺の立場ないよなぁ。」 嘘。 わずかな期待がわずかなきっかけを元にひとつの可能性を作り上げる。 醜い感情が雪崩のように、きた。 それなら・・・ 「それなら、今度・・・」 「でも俺は負けん!」 「はい?」 「たとえ君の弟がかっこよくて嘉穂が惚れそうになっても俺が必死で食い止める!」 あ・・・。 「あいつの惚れっぽさ尋常じゃないんだって!俺、何回駄目になりそうになったことか。」 「どれぐらいなんですか。」 「10回。しかもその10階の中の3回は婚約してからだよ。」 「じゅっか・・・っ!」 「な、すげーだろ?」 「す、すごいですね・・・。」 駄目だ。こんなの無理に決まってる。 私が小手先で彼女を罠にはめようとしたって、彼がきっちり自分の方へと向かせるのだろう。 そんな彼のめげない、まっすぐで真摯なところに彼女は惹かれ、私も同じように惹かれたのだ。 そして、冷静に考えてみればさっきのあれは私に対して「焦った」んじゃないことに気づく。 惚れっぽい彼女に対して「焦った」んだ。私はようやく理解した。 そんな人を私は引き摺り下ろそうとした。 その思いがじわじわと己を傷つける。当然の報い。 「今度・・・あいつのすんごい不細工な寝顔写メって送りますね。 そしたら嘉穂さんすっぱりあきらめられるでしょ?寝顔ならきっと勝てますよ。」 「今、何気に酷いこといってるよね?昼間の顔は駄目ってことじゃん。」 「何いってるんですか、『夫婦』になれば夜の顔のほうが見られること多いんですよ。 そっちで勝負すればいいんです。」 「なるほど!」 うんうん、と肯いて彼は時計を見た。 「わ、やばい!朝一で会議はいってんだった!じゃあ、弟君によろしく!」 そいういって、無風だった朝に一陣の風を撒き散らし彼は去っていった。 今日の仕事はいつもの3分の1しかすすめられなかった。 期待なんてするもんじゃない。分かっていてもとめられなかった。 期待した罰として「夫婦」という言葉をあの人に対して初めてつかった。 どうしようもない現実が足元に刺さる。 もう報われない恋で泣くのは嫌だ。 さっさとどこかへ身を落ち着けたい。そんな気持ちにさえなる。 あんましあっちこっち歩かなくていいように。・・・もう、歩けない。 「お疲れ様。ゴールまであと少し。」 某ボランティア番組のテーマソングを歌いながら迎えられる。 気づけば駅裏だった。 ねぇ、そこは「ゴール」じゃなくて「ふりだしに戻る」でしょ? それでも今はその宿り木に止まらせて。 「だっこ」でもなんでもすればいい。