one day I remember

今思うこと、ある日いつか思い出す、その日のために

この日を選んだ人へ。 どうしようもない妄想のはけ口です。 ホタルの幻を見てあてられたような気分でつらつらと書きました。 誰かと誰かを思い浮かべてはいますが、その名をださないようにしてあります。 だから、別に誰と誰を想像されてもかまいませんが残念なことに1人称がお互い同性です。 分かりますね? それを甘んじて受け入れられる人、多少の興味でみて その後さらっと流せる人だけ続きを開いていただければよろしいかと思われます。 いやだと思ったら途中で引き返して忘れてください。 忘れられる程度のもののはずです。   暗い夜道を二人で突き進む。 携帯の僅かな光を足元に照らして。 「いる?」 「さぁ・・・」 「さぁ・・・じゃない。いるっていったからここまできーたーのー。」 前を歩く人の背中をぐりぐりと指で押す。 1本の田んぼ道をとおり山のふもと、小川のわき道へと出ると 星でもない月でもない小さな光がひとつチラっとみえた。 「あ、あれ!」 「いたね。」 「うん、まずは見た、って感じ。」 まだ、きれいとかそういう感情はなかった。 そこから少し小川に沿って踏みならされた土の道を歩いていると山のふもとの木や川辺の雑草から 次々と光が点滅する。 「増えてきたなぁ、少しとまってみようか。」 そういうとつないでいた手を離してお互い上を見上げた。 木に止まっている蛍が数匹と、川辺でふよふよと飛び交う蛍が数匹。 「数は多くないけど、きれいだね。」 逆にこれぐらいのほうが幻想的な感じもする。 「木や草に止まっているのが雌で、飛び交っているのは雄なんだ、一般的にね。」 「へぇ・・・、じゃああの仲よさそうに飛んでるの両方雄なんだ。一瞬ほほえましいって思ってたのに。」 「あれだよ、作戦会議。どの子がいいってさ、話し合ってんの。」 「なるほど。雌は高みの見物か。」 「そんなところ。」 作戦会議を終えた2匹がふもとの木へと向かっていく。 「でも、雌も光るっていうのは珍しいね。だって、男が目立つためのそれじゃん。」 孔雀とか鹿とかライオンとか派手なのはみんな雄だ。それで相手を誘う。 「確かに、雄しか光らない種もいるらしいよ?でも、蛍の雌は体力的にあんまし飛べなくてさ。 そんな彼女らがどうやって最愛の人を見つける?自分で飛んでもいけない、ただ、木に止まって 自分を見初めてもらうほかないんだよ。たまに少ない体力で移動したりしてさ。」 「自分もがんばって光らないと、僅かな一生ずっとひとりぼっちか。」 そりゃがんばるわな。雌も。 「そう考えると、のうのうと飛んでる雄むかつくな。何が作戦会議だっつの。」 選んでる側は楽しいかもしれないけど選ばれる側はびくびくしてんだぞ。 「まぁ、選ぶほうもひやひやじゃない?拒否られたらもう次探しに行く気力ないって。」 「おれなら断らないけどなー。自分を好いてくれたってだけでもう十分。」 僅かな一生、それだけが自分におこりうる最大のドラマだ。逃したくはない。けして。 早く選んで選ばれて結ばれて。残り僅かな時間を楽しく幸せに。 願わくばここにいるすべてがそうであるように。 小川をいけるところまでいき往復して再び田んぼ道に戻る。川辺ほどではないが かえるに混じって2,3匹舞っているのがちょくちょくみえた。 「こんなところにいないであっちいけよな。あっちにいっぱいいるって、美人が。」 「いや、意外とさ群れていないところに美人は潜んでいるのかも、それとも・・・。」 「あ、ちょっと、お前今足出すな!」 へっ?という間抜けな声を右足上げた状態でいう彼の足元にしゃがみこんだ。 「何、何?」 「お前、その隠れた美人を踏もうとしてた。」 「うそ!わ、まじ、ごめん。ってかよく気づいたな。」 足を静かに下ろすと彼もその場にしゃがみこんだ。 心なしかその蛍の光はか細く感じる。 彼の顔が神妙な面持ちへと変わる。 「あー、もう、駄目かも・・・。」 その光をまじまじと見ながら相手がぼそりとつぶやいた。 「駄目って、何が。」 「こいつ、もう、これ以上光れない。」 うそ。 「美人薄命とはよくいったもんだ。」 「ねぇ、こいつ一人?このまま一人?」 「たぶんね。」 「ちょっとお前さっきとんでた2匹捕まえて来い。人生最後の『ねるとん』をこの子に体験させよ・・・」 「それなんだけどさ。」 「何。」 「この辺仲良く飛んでる2匹はその子に興味ないと思う。」 「なんで超美人だよ。しかも弱ってる女の子!チャンスもチャンス。」 「チャンスだと思わない雄もいるってこと。」 さらっといったその一言に目を見開き、疑いの目を彼に向けた。 「・・・どういうこと。」 「こういうこと。」 告げられ、絡んだ指。さっきよりきつく、熱い。 「なんよ、これ・・・。」 「まぁ人様と同じで?ほかのお仲間たちからは到底理解できないような感情を持ち合わせた 物好きな雄もいるの。だからみんなから離れたところで2人の世界を楽しんでるんだよ。」 蛙が、げひた声でそれを騒ぎ立て、笑いあう。 まんざらでもない2匹が浮かれて飛びあう。 その中で、誰とも相容れない命がひとつ消える。身勝手な恋ひとつで。 「離せ。」 「ん?」 「離して、で。しばらくどっかいって。」 「なんでよ。」 「看取るから、こいつ。お前がいると邪魔。」 「はいはい。じゃあ、先に車戻って一服してる。」 そういうとあっさり手を離しすたすたと歩いていってしまった。 照らされていた携帯の光もなくなり、今はぼんやりとした月の光と僅かな蛍の光だけが残った。 指でそっとその体をもちあげ自分の手のひらへと乗せる。 か細い光がまた一段と弱くなった。 「ごめん・・・。ほんと、ごめん。」 つらいものを見せてしまったように思えた。 人も蛍もこいつにはつらくあたってしまった。 たった一人、自分を選んでくれるだけでいい、それだけなのにね。 イレギュラーなことに光を求めたら、正しく求める光が閉ざされてしまった。 それは人も蛍も同じように思えた。 「もう、いいから・・・いいからおやすみ。」 そっとその光を手で覆った。 もう見なくていいし光らなくてもいい。 次の光に迎え入れられるまでせめて安らかな闇を。 やがて、光がひとつ静かに消えた。 「で、なんでそんなに泣きはらしてるかな。」 しばらく泣いた後、車へと戻り助手席に座ると、 あっけらかんとその質問をしてきたので思わず平手打ちをかました。 「なんでお前はそんなにデリカシーないかな!?」 肩をつかんでぐらぐらと揺らしながらそういうと、 すいませんデリカシーないおおざっぱな人間なもんで、と平謝りされて さらにむかついた。もういっそ首絞めようか。 「何、重ねちゃってんだか、自分と。」 あほらし、ってな感じでため息をつかれた。 一応、こちらの気持ちは悟っているらしい。 「だって・・・。」 腕を下ろしそのまま助手席でひざを抱えた。 同じようなこと、してる。 「だから何。」 「誰かと結ばれるはずだった手を払って握ったのは俺だよ。」 その手はどこに行くんだろうね。 ため息がさらに濃くなった。お互いの。 「・・・あんさぁ、たぶんこっちの雌はそこまでぐずぐずじゃないとおもうよ。一人でも楽しく光っていられる 方法を、長く光っていられる方法をしっている人がいるでしょ。すぐ死なないし。」 それに誰かの幸せ奪って自分が幸せになるのは男女でだってあることでしょ。 彼があっさりとそういった。 分かってる。 蛍じゃない、自分たちは。そんなこと。 いくらでも見初めてもらう方法はあるし幸せになれる方法もドラマも無数にある。 でも、あの時思って口にしなかったことがあった。 田んぼにいる2匹の蛍が、それは穏やかに戯れるようにしてとんでいるのが 自分たちのようでそのときちょっと幸せだと思えたこと。 それがあの小さな命の終わらすきっかけになっていたことが、 ひどく罪悪感を感じさせる結果になった。 「もう、しばらく2人で綺麗なもの見るの、やめよ?」 しばらくの沈黙の後、俺はそういった。 普段から一緒にいられないからせめて2人でいるときは特別に。 そう思い、いつもいつも綺麗ななところで密やかに光っていようとした。 それは、俺からの提案だった。 「じゃあどうすんの?」 問われてもどうしようもなくてますます泣けてきた。 ねぇ、綺麗なもんばっかり見るんじゃなかったよ。 そのたび、小さく罪悪感が積みあげられていたんだ。 これでいいのかなって、ずっと、ずっと。 手を離してくれるときがさみしくもちょっとだけ安堵感をおぼえていたの。 「もう、いい。つらいだけ、は、やだ。」 つらくない方法を教えて。 わがままばっかりで解決策がみつからない。 手放したいものと手放せないものがほぼ一緒だから困る。 顔を背け助手席側の窓に向いてぐすぐすないていると、後頭部をやさしくなでてきた。 「正しくなくても、光がなくても、間違いでも、幸せなことはある。」 それはうっとりするような甘い言葉だった。 「たとえば?」 「今は割と幸せな部類にいるよ、俺。」 「割と、って。」 「誰かさんがぐずぐずしていなかったらもっと幸せ。」 助手席の窓に彼の左手が張り付き、近づいてきた頭に身を強張らせた。 肩をすくめるも、無防備な右耳を嬲られ齧られた。 ひっ!と、猫が首根っこをつかまれたときのような声がでる。 「綺麗じゃない世界を、共に歩みましょう。」 彼の甘い声に混じり、げひた蛙の笑い声が聞こえる。 蛍の偏愛を騒ぎ立てるときと同じように。 でも、おれは蛍じゃないから。 「・・・それで、生きていけるならば。」 つらくないのなら 笑いあえるのなら 愛し合えるのなら 誰かの幸せを踏みにじっても平然としていられるのなら 「汚して、全部。」 ------------------------------------------------------------------------------------------ 先日蛍を見に行き、スピッツの「ホタル」という曲を思い出してあらためてきいたら 妄想がとまらなくなってしまってできてしまったもの。 実際そんな蛍がいるかどうかはしりません。想像と妄想。 だってどうみたって川辺の2匹は仲よさそうに飛んでるから・・・。 でも、雌はあんまし元気に飛んでいられないんでしょう?じゃあさぁ、って思うの。 時を止めて 君の笑顔が  胸の砂地に浸み込んでいくよ 甘い言葉 耳に溶かして 僕のすべてを汚して欲しい 正しい物はこれじゃなくても 忘れたくない鮮やかで短い幻 幸せになれない人万歳。 主に私が楽しい。